輪廻ノ空-新選組異聞-


「わたし、歴史の勉強が大嫌いでした」

今生きてる自分は、前に向いてしか進まない時間の中で、変えられない過去なんか振り返っても無駄だって思ってました、と沖田さんに苦笑を向けた。

「でも…国の事を考えて、守りたいって思って、焼けても復活させていく、そういう繋がりの上で私の生きる場所がある」

そう思ったら…ちゃんと大事にして、わたしたちもずっと先の人達の為に生きないとって思った。

「沖田さん達から、過去の人達から引き継いできたって事を知るのは、とても大事ですね」

心からそう思った。

沖田さんは、わたしの前髪をくしゃっと撫でて。

「日々学びですね。私もそんなあなたから沢山の事を学んで、気付きを貰っています」

凄いことだと思います。と沖田さんは笑顔になって、それを更に頷かせて。



清水寺からちょっと下って、霊山という所から山道に入っていったわたしたちは、吹きだす汗を手拭いで拭いながら、人気のまったく無い中を歩いた。

「………なんだか」

ちょっと恐いですね、と私は鬱蒼とする山の木立を見上げてから、沖田さんに言った。

「誰もいないし、ここで殺されちゃっても誰にも気付いてもらえませんよ」

「そうですね。人気がないからこそ、出会う人は怪しい人、と考えても間違ってはいないでしょうし」

沖田さんも頷いて。

「一人で来てはいけませんよ」

と、言われて、わたしは慌てて頷いた。

「ひとりでは絶対来ませ……っわわ」

草履の足が、滑って前にのめった。

けど、

沖田さんが抱き留めてくれて。

「あ、ありがとうございます」

急に人気のない事が恥ずかしくなってきて、まともに沖田さんの顔を見られず、俯いたままお礼を言った。

「どういたしまして」

沖田さんの答える言葉が続いた直後に、俯いた私の目の前に手が差し出された。

「え?」

思わず顔をあげると、沖田さんの笑顔があって。

「誰もいませんから、手を繋ぎましょう」

「……はい」

嬉しくて。

わたしはぎゅっと沖田さんの手を握った。
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