輪廻ノ空-新選組異聞-
「このような時、そして行き先への目的からすると不謹慎かも知れませんが…」
と、わたしの手を改めてぐっと握り直してくれながら、沖田さんが口を開いた。
「こうして二人きりになれて、嬉しく思っている己がいます」
「沖田さん…」
そんな風に思ってくれている事が嬉しくて。
幸せで。
「その、イロイロ…お預けになったままでもありますものね」
私も思わず言ってた。
激しい稽古の後で倒れてしまったわたしに、口移しで石田散薬を飲ませた土方さんの事で…焼きもちが発端になって気持ちも身体も盛り上がってしまった。
「あの時の約束…早く果たせたらいいですね」
戦が終わったらゆっくり……過ごしましょうと、そんな風に約束していたんだ。
わたしたちは手を繋いだまま、もくもくと山道を上がった。
「…っ!」
思わずびくっとしてしまった。
うめき声みたいなのが聞こえて。
ちょっとだけ砂利を踏むような音もした気が…。
沖田さんも勿論気付いていて、わたしを勇気づけるみたいに一度ギュッと手を握ってくれてから、立ち止まって周囲に気を張り巡らせる。
山道は分かれ道になっていて、立て札に「右、大日堂」「左、将軍塚」と書かれている。その分かれた道のどちらでもなく、そのずっと奥の方…道ではない方角から聞こえる。
呼吸が乱れるような、荒い息づかいがただ事ではないと伝えていて。
わたしは迷わず、道を外れて声の方に行こうと踏みだした。
「っ」
腕を引っ張られて、驚いて沖田さんを振り返った。
「…っん」
開こうとした口を塞がれて。
真っ赤になって首を振る沖田さんに目が丸くなる。
何がどうしたというんだろう。
沖田さんはわたしの口を塞いだまま、元来た道を少し下ってから、道を外れた茂みの所まで私を引っ張って行った。