輪廻ノ空-新選組異聞-
「声を立てないで下さいね」
唇同士が触れそうなぐらい、顔を近づけてきた沖田さんの囁きに、私は何度も無言で頷いた。
「では…」
沖田さんはそっと口を塞いでいた手を離した。
「あれは……襲われているとかではなく…」
わたしは「はい」と無言で頷く。
「その……ですから……男女の…ま、まぐわいを…」
「………」
まぐわいって…
えーっと、
男女……
「…っ!?」
ようやく気付いて。
ほっぺたが燃えた。
「えーっ!!こ、ここここんな所で…っ」
声にはしなかったけど、叫ぶ口調で沖田さんに言ってから、もう一度耳を澄ます。
「………あっ、ん」
「…っふ、……っ、どないじゃ」
「…ええよ、……んっ、もっと…」
はぁはぁと、激しい息づかいと、肌がぶつかるような音。
それに……明らかに…いやらしい音が……。
わたしは助けを求めるように沖田さんの顔を見上げたけど……
目を半分伏せて、真っ赤になっている沖田さんと視線が合ったら…余計に恥ずかしくなって。慌てて顔をそらした。
「ぁっ、いきますえ…っ」
小さな悲鳴のようなのが聞こえて、そして激しさを増した音の後、打って変わってシーンと静まり返った。
「あんさんの……ややこが…欲しい。産みとうおす」
戻ってきた乱れた呼吸の合間のか細い言葉。
「死に別れても…ややこがおったら…うち…」
「おまんは…わしに心残りを増やす気がか?」
……なんて
なんて悲しいやりとりなんだろう。
と、わたしはさっきまでの恥ずかしくて堪らない気持ちも吹き飛んで呟いてた。
「行きましょう。邪魔をしないように」
と、沖田さんがそっと私の手を取って、立ち上がった。
「はい」
小さく答えて、物音を立てないように再び将軍塚の方へと歩を進め始めた。