輪廻ノ空-新選組異聞-
沖田さんはしばらくわたしを見つめた後、繋いでいた手をグッと引いて、わたしのからだをギュッと抱き締めた。
沖田さんの胸に顔を預ける格好で抱き締められたわたしは、びっくりして、その腕の中から沖田さんを見上げた。
「あなたも…」
やはり同じように考えていたんですね、と沖田さんの嬉しそうな穏やかな声。
「こんなに…気持ちが繋がっているとは…嬉しいです」
そう続いた言葉に、わたしも頷いた。
「よかった。わたしも嬉しいです」
そんな事を言うのは…冷たいのかも、ともちょっと思ったので…、と言ったら、沖田さんは首を振って。
「本当にお互いが充たされていたら、支えを欲しいなどと思いはしないと思うのです」
それに、私が残されていく立場だとしても、やはり、相手の心残りは増やしたくない。安心して旅立って欲しいですから、と沖田さんは微笑した。
「大体、死に別れたって何だって、身体がなくなっちまうだけで、その存在はずっと己の中に在る。寂しくはなるだろうけれど、ずっと一緒な事には変わりないのです」
沖田さんは言いながらわたしの前髪をくしゃっと撫でて。
「今突然あなたが私の目の前から消えたら…驚き、悲しむのは本当です。けれど、その後嘆くのではなく、共に過ごし充たされた事を胸に、充分に生きていけます」
あなたが羽織だけを橋に残して消えてしまった時は…本当に取り乱しちまったけれど…と、苦笑して。
「突然に、何の前触れもなくいなくなられるのは…少々厳しいですが、それでもやはり…きちんと、あなたとの時間を糧に歩いていけます」
断言してくれた沖田さんの言葉にわたしも頷いた。
「わたしもです」
そして、ぎゅうっと沖田さんの体を抱き締める。
いつもの沖田さんのお香の香りを胸イッパイに吸い込んで。
たとえば、この香りを思いだすだけでも、わたしは充たされると思う。
沖田さんが亡くなってしまった時…
わたしは沖田さんが安心して旅立てるよう、わたし自身もちゃんとしっかり歩きたい。たぶん、沖田さんより一年以上長生きする土方さんについて行くんだと思う。沖田さんの思いを自分の中に抱いて。