輪廻ノ空-新選組異聞-
将軍塚を下りて、五条坂の麓にある小料理屋で軽く晩ご飯を一緒に食べた。
あんな空気になってしまって、ちょっと気恥ずかしかったのだけれど、下る時もやっぱり手を繋いで。
凄く充たされた気持ち。
そして、頑張らなきゃっていう改めての覚悟の気持ちを抱いた。
勘定を終えて店ののれんを潜ったら、外は涼しくなっていて、秋の気配が濃くなってた。
ふたりしてちょっと立ち止まって、深呼吸。
通り過ぎてく、小僧さんを連れた娘さんふたりがわたしたちの方をチラッと見てから、真っ赤になるのが見えた。
「沖田はんどしたえ」
「隣は須藤はんとちゃうやろか」
………っ、
はぁ…っ?
「ちょっ、沖田さん」
わたしは小声で言って、沖田さんの袖を引いた。
「今の娘さんたち…」
ああ、と沖田さんはちょっと困った顔をした。
「池田屋からこっち、顔が知れ渡っちまっているようで…」
池田屋から屯所まで凱旋した。
戦闘には参加しなかったけれど、わたしも手伝いをしたひとりとして隊列に加わってた。
確かにあの時、物凄い人だかりが道にずらーっといたけど…。
羽織の衿には名札が縫い付けられているから、顔と名前が一致したんだろうけど…。
この時代の女の子も、普通にファン心理みたいなのがあるのかな…。明らかに…有名人を町中で見かけて「きゃっ」となる乙女の反応と同じだった。
「土方さんなんて凄いですよ。遠巻きに見てから、ついて来る娘さんたちもいますからね」
「はぁ」
「蘭丸は巡察に出なくなったから、分からないでしょうが、町衆には本来は嫌われているのに、変な感じです」
そんな新発見な会話をしながら帰路について。
屯所に戻ったのは丁度暮れ六つの鐘が鳴る頃だった。