輪廻ノ空-新選組異聞-
「はぁ…」
と、大きな溜息が、湯船につかる私にまで聞こえてきた。
「沖田さん?大きな溜息。大丈夫ですか?」
って、疲れさせてるの私ですよね、ははは。と付け加えたんだけど、すぐに「違いますよ。あなたといると、まぁ…飽きません。心の臓には悪い事が多いですけれどね」と返されて。
「明晩は無礼講で羽目も外して、大騒ぎになると思いますが、あなたは適度な酒で眠っていて下さい。案ずる事はありません」
って、意味深!余計に気になるじゃないか。
返事もせずに黙っていると、沖田さんの方がボソリボソリと口を開いた。
「あなたは…その…どこまで知ってるんでしょうね、私たちのこと」
「へ?」
「これから先、何が起きるとか、どうなる、とか…そういった事です」
未来から来た私が、どこまで新選組のことを知ってるかって事…か。
「えーっと、沖田さん。多分私の時代とこことじゃ、得られる情報量が違うと思うし、私なんかは恵まれた所にいて、なのに勉強は大嫌いだから全然覚えてませんけど…。例えば沖田さんは…徳川家康が何年、何月に何したとかって分かります?」
「いえ…。そうですね、分かりませんね」
「私、おおまかな流れしか覚えてません」
と、答えながら…明日の夜、沖田さん達は何かしようとしてるのかなって…。もしかしたら、詳しい人なら知ってるような歴史に残るような事をするのかなって思ってしまう。そう思いながら、道場で色々と聞かされたり、父さんが話してた事の内容を欠片でも思いださないかなって一所懸命記憶を探る。
湯船から上がって、着物を着けて…脇差を腰に手挟むまで考え続けて。
「お待たせしました。ありがとうございました」
番をしてくれていた沖田さんにお礼を言いながら、顔を見た。
「新選組のために…頑張りましょうね。町を歩いていても、逃げられたりしない方があなただって居心地が良いでしょう。だから、必要な事には情を挟まない」
にこっと笑って言う割に、何か重くて。見つめた瞳の奥は何か揺れているようで…。でも私も「はい」と笑って返した。