輪廻ノ空-新選組異聞-
梅雨入りしたのか、蒸し暑い小雨の日。
今日は非番!
ということで、道場に稽古に出向いた。
沖田さんは一番隊を率いて巡察に行ってるから、今日の師範は誰かな~、なんて思いながら道場をのぞくと、齋藤さんがビシビシと隊士をしごいているところだった。
私は急いで防具を身につけると、道場の中に入った。
「須藤、参加します!」
どなたか、お相手願います、と声をかけながら、壁際で手を休めている隊士達の前を歩いていると、齋藤さんから指名がかかった。
「俺が相手をしよう」
「はい!」
齋藤さんは、沖田さんや永倉さんと並んで、とびぬけた剣客のひとりだ。
私はワクワクしながら前に進み出た。
気合をお互いに発しながら、ジリジリと間合いを詰めて、呼吸すら悟られないよう視線を合わせて隙を伺う。視線をはずさないまま、けれど誘うように晴眼に構えた切っ先をわずかに下げてみた。
一瞬で間合いを探っていた時のあやういながらも保たれていた均衡が崩れて、激しい打ち込みの応戦になる。
どんっ、
カーンッ
ガッ、
ダッ、
ダダーンッ
床を蹴る足音と、木刀のぶつかりあう高い音。
次の瞬間、鍔迫り合いになった。
身長ではかなり勝っている私は上から押し込むようにしながらも、サッと力を抜いた瞬間に後ろに飛び下がりながら、齋藤さんの胴に蹴りを入れる。が、それより先に、その蹴りを跳ね飛ばすような勢いで踏み込んできた齋藤さんの剣先が頭上をかすめる。
「ハッ」
更に下がると見せかけながら、剣先を鍔ですりあげた瞬間、前へと飛び込む。
ガシーンッッ!
胴と胴がぶつかり合って、お互いに跳ね飛ばされるように離れる。
抜き打ちの、一発勝負が得意な齋藤さんだけれど、こうして稽古の時には、合わせて打ち合ってくれる。それが、ほんと、楽しい!
命のやりとりの予行ってわかっているのだけれど、やっぱり、私の中には剣術に対しては情熱があるみたいだ。
無理やり習わされていたのに、稽古のたびに実感する。
結局最後は、齋藤さんの一刀をいなした瞬間に、わずかに崩れたバランスを見破られ、脛に打ち込まれて床に倒れこんだ私の敗戦。
「くそーーーーっ」
また勝てなかった!
私は迸る悔しさで、齋藤さんへの礼を済ませた瞬間叫んでた。
静まり返っていた道場には、再び稽古再会の喧騒が戻りつつあったけれど、私は隅でひとり、さっきの打ち合いを反芻して反省!
「姫御前のような面立ちながら、凄まじい使い手ですね」
唐突に声をかけられて、思わず油断した!と心の中で自分へ叱責しながら、間合いを取った。
「あ、伊東先生。気づかずご無礼をいたしました」
更に間合いをとって、一礼した。