輪廻ノ空-新選組異聞-
「見かけない面ゆえ、つい目を惹かれましたが…いつからこの新選組に?」

外した面を抱えなおしながら、私はちょっと思い出しながら答えた。

「まだ壬生浪士組と言っていた頃の秋ですから…もうかれこれ一年半になります」

私の返答に、伊東さんは目を丸くした。

「まぁ、よくも、そのような華奢な体で、戦やら、池田屋やら乗り切ってきたものです」

と、私の肩を撫でてきた。


ぞわっ


と、した。


も、ももももしや…伊東さんも…伊木さんとか、武田さんみたいな衆道ってやつですか!?


「か、監察方ですので、余り屯所で過ごすこともございませんし、巡察にも出ませんので、他の隊士の方々に比べれば、肉体的な弱点は余り差支えないと思います」


平静を装って答える。


「監察方ですか。……密偵の任務と、隊内の風紀等の監視ですね」


「はい」


「何にせよ、危険にはかわりありません。ちゃんと自愛なさい」


と、腕をするりと撫でられた。


「………」


無言で固まっていると、サッと、背後に影がさした。


「伊東先生、須藤は沖田と義兄弟の契りを交わしているゆえ、無闇にお触れにならない方が賢明と存じます」

「義兄弟の契り?」「義兄弟の契り?」


と、伊東さんと私の同じ反問の言葉が重なった。

瞬間、齋藤さんが「馬鹿」とばかりに、袴の影で見えないように足を踏んできた。

「菊花の約(ちぎり)…」

伊東さんが呟くように言ったあと、私の腕から手をのけてくれた。

「またお相手が沖田くんとは」

と、感心したような、驚いたような顔で、でも含み笑いをして私を眺めてきた。


「文学はお好きですか?」


唐突に違うことを聞いてきた伊東さんに、ポカーンとしながらも、嫌いじゃないから、「はい」と答えた。

「ではまた、私の講義を是非聞きにおいでなさい」

そう言い置いて、道場を去っていった。



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