輪廻ノ空-新選組異聞-
壬生の屯所から、近藤先生の休息所はとてもシンプルなみちのり。

ひたすらまっすぐ南下。西本願寺を越えたすぐ近く。

徒歩で気軽に通える場所を選んだんだと思う。

西本願寺はとっても大きなお寺だから、古道具屋さんは多くて。

一軒、近藤先生が壬生にいた頃から見知っているお店のご主人に、休息所までいらない道具を取りに来て下さいと声をかけて、結局一緒に大八車を押しながら休息所に到着しちゃった。

土間に並んだ古びた行燈やら、ちょっと使わなさそうな長持ち、錆びた鉄瓶とか余分な火鉢とかを、手分けして大八車にのせた。

「へぇ、ええ塩梅に助かりました。いつもご贔屓にありがとさんどす」

ご主人は言うと、引き取りの手間賃を引いた道具代を置いて、あとは一人で引いていけるからと大八車とともに来た道を戻っていった。

「なんだか殆ど整ってる気がしますね」

私は土間と続いてある台所…厨(くりや)のお鍋やお釜、まな板、包丁を確認し、食器も必要最低限あるのを数えていきながら呟いた。

「本当は一時だけ、近藤さんが江戸に行かれる前に生活してたんですよ。でも、体調を崩されたのでここで一人ってのもいけませんからね。妹さんの所に行かれてるんです」

沖田さんが火鉢に点火した墨を入れながら教えてくれた。

本当はもっと早くに深雪太夫がここに移って、江戸からお戻りになる近藤先生をお迎えすることになっていたんだけど、体調が快復しなかったから、まだ引っ越しは未定なんだって。

「大きなものから細々したものまで運び出して、室も広くなって清々しい。きっとお元気にここで過ごせると思いますよ」

できた、と沖田さんは嬉しそうに火鉢に火箸をさすと立ち上がった。

「これで暫くしたら、室も温まります。食材を買い出しに行きますか?」

「はい」

沖田さんは火事にならないように注意深く火鉢を確かめると土間に下りてきた。

「えーっと…」

沖田さん、と私は沖田さんを見上げた。

「大所帯の屯所とは違うので、買い物は一人でも平気ですよ?普通、この時代の人って男の方…というか武士はもともと買い出しに付き合ったりしませんよね?」

カップルじゃあるまいし、女性が家を守るものなのだとしたら、男の人は、ほら、いわゆる、あれ。えーっとよく永倉さんとかが、そういう生活がいいって言ってるんだ…。

「アゲゼンスエゼン!これがいいのでは?」

思い出せた。字はわかんないけど。

「どんな格式高い、お武家ですか、それは」

沖田さんは吹き出すと、お腹を抱えて笑いながら言い返してきた。

「試衛館にいた頃から、門人で厨は持ち回りで料理してましたし、買い出しだってしていましたよ」

「そうなんですか?」

じゃあ、と私は嬉しくて満面の笑顔になった。

「一緒に来てください」

「承知」

と、沖田さんは私の額の髪をくしゃくしゃと撫でた。

「だいたいあなただって、武家の姿なんですからね?一人で買い出しは不自然でしょう?」

と付け足しながら。

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