輪廻ノ空-新選組異聞-
「肴にネギのぬた和え作りましょう」

朝ごはんにも使えるかなって、ねぎを買っていたので、ちょうどいいよね。

「えっ。この夕餉で十分肴になりますよ?」

「私も食べたいですし」


夕餉の膳を下げた後、私は手早く酢味噌で切ったネギを敢えて小鉢に盛って沖田さんの所に戻った。そして小鉢だけの膳とふたりの間に置いて。

帯に挟んでいた手ぬぐいを取って、温まっている徳利を手ぬぐいで掴んでお湯からあげた。

えーっと、お猪口。確か茶箪笥の中にあった…と思いだして、取りに行く。


「はい、沖田さん。どうぞ」

お猪口はふたつ。
まずは沖田さんにお猪口を渡して、ついであげる。

くいっと飲み干した沖田さんが私のお猪口にもついでくれて。

私もくいっと飲み干す。

ほわ~んと胸と喉の奥が暖かくなる。


私ってば未成年なのもすっかり棚上げにして、お酒を当たり前のように飲んで大人みたい…!


って言うか…

去年の今頃なんて、料理の「り」の字も知らなかったんだよ!

それがこの急成長!

それもこれも…

沖田さんがいてくれたから。


沖田さんを好きになって。

年表にあった沖田さんの死の原因が「労咳」という病なのだとしたら、一番大切だという滋養をつけて貰いたくて料理を覚えた。

それこそ必死になって!


病気…


途端にザワザワと胸が鳴り出した。

じっと目の前の沖田さんを見つめる。

とっても元気に見える。

このままずっと、こんな風だと思いたい。


そんな理由で料理を覚えたとか…本当はいやなんだよ。ふつうに手料理食べてほしい、ってな感じがいいよ。


うるっ、と瞳が潤むのを感じた。


「おや、蘭丸。もう酔っぱらったんですか?」


私はハッとした。


「いえ!」

こうして沖田さんとふたりで、過ごせていることに…感謝していたんです。


「蘭丸…」


「ずっと…こうしていられたらいいな…とか、ちょっと思ってしまったり、甘えたことを考えてしまいました」


「私だって、同じ気持ちですよ」


沖田さんは言って、膝の前の膳を脇へと退けると、私の方へといざりよって来てくれた。


そっとのべられた手。指先が私の頬に触れる。


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