輪廻ノ空-新選組異聞-
「沖田さん…」

愛しさがこみ上げる。

暖かな指先。

私は自分の手を重ねて、沖田さんの手で自分の頬を包む。

ここ数カ月、何度も気持ちを重ねて。それだけでもとっても充たされてた。でもやっぱり…ぬくもりと、この触れ合う感覚はとても大きい。


「総司、と呼んでください。蘭子さん」


沖田さんはそう言って、頬にあてた手に力をこめて、くいっと私の顔を仰のかせた。


「総司さ…」


柔らかく、暖かな唇が、私の唇をふさいで、全部は言わせてくれなかった。


小さく音を立てて離れる唇。


思わず、自分からそのぬくもりを追いかけようとしちゃって。

そうしたら、沖田さんが手で私の唇を塞いだ。

「ここで今は打ち止めです。……我慢がきかなくなっちまいそうだ」


か~っと頬に熱が駆け上がる。

と同時に、ハッとした。

「お風呂、お湯が沸いていると思います!」

沖田さん、どうぞゆっくり浸かってきてください、と私は言って立ち上がる。

「浴室手前の籠にお召変えの寝間着と、手ぬぐいなど用意してありますから」

「じゃあ、そうさせて貰おう。ありがとう、蘭子さん」

えーっと、と私は真っ赤になったまま沖田さんを見上げた。

「さん、はいらないです」

蘭子、と呼び捨てで。蘭でもいいです。

「時代劇風に、お蘭、とか…」

照れ隠しにまくし立ててた。

「時代劇風?」

と、沖田さんがおかしそうに反問してきて。

「はっ、あ、その。私のところではこの時代の人達になりきって、演じるものがありまして…」

ふうん、と感心したように沖田さんはうなずいた。

「では、お蘭。先にお風呂を頂きます」

「はい」

お蘭、という響きにドキドキしながらも嬉しくて。私は火加減を構うべく、お勝手から外に回った。

普段から沖田さんは熱めのお湯が好きで。

八木さんの所でお風呂を使わせてもらっている時、私は沖田さんが上がった後の、もう火を消した後の湯加減で十分だった。

今日もそんな感じで入浴が済んだ。




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