輪廻ノ空-新選組異聞-

馴染

本格的な冬支度をしつつ、屯所では年末年始も関係なく巡察は続くし、私のいる監察方も、池田屋事件以降、余計に不逞浪士達の動きが大きくなってきているので、大坂への出張も多くなったし、またもや何だか日々に忙殺されている感じ。


「須藤、黒谷まで供をするように」

「へ?私がお供ですか、副長」

「そうだ。今日の面会ではおまえが実際に見聞きしてきている雰囲気や情勢をありのまま語ってもらいてぇんだ」

と、私を副長室に呼び出すなる、どんどん言葉を放ってくる土方さん。

「格式張った報告書では伝わらねぇ部分もあるだろ?」

「確かにそうですけど…」

でも、それこそ格式の高い藩のお偉い人達の前で、格式ばった言葉使いは無理だ。

池田屋の時、柴司さんの事件の時もそうだったけど、会津の人達ってちょっと怖いんだよね…。

「言葉の使い方を知りませんので、土方副長、恥をかくかもしれませんよ。一緒に出張してた山崎さんか島田さんがいいんじゃないですか」

と、脅かすような口ぶりで言って、何とか逃れられないかと思ったんだ。

「伝わりゃいいんだから、口調などどうでもいい。間違えたら、俺が訂正してやる」

「えー…」

「えー、とは何だ、えー、とは」

おめぇなんぞ、こんな事でもねぇとお会いできない会津公に会わせてやるってぇのにだな、と続いた言葉に驚愕した。

「そ、そんなこと聞いたら、益々行きたくないです!」

副長室から逃げ出そうと腰を浮かしたら、命令だ!とぴしゃりと言われて。

結局諦めて、滅多に着ないから真新しい紋付の羽織袴に着替えて土方さんと一緒に屯所を出た。

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