輪廻ノ空-新選組異聞-
「…………」

ひぃ~。
声が、出ないよっ。
しかも、何から言ったらいいの!

お殿様の視線を感じながら、口を開けたり閉じたり…。

「お…畏れながら申し上げます…っ」

と、上ずったよ声!

「大坂では、挙兵の気配などについては、大きな動きなく、一時の動乱を思えば…」

落ち着いてるんだ。でも、緊張しすぎて、舌が回らない~。


「土佐、酒肴の用意をせよ」


わたしがカラカラになった喉と、うまく回らない舌で、目を白黒させているとお殿様の口からそんな言葉が漏れた。


「されど、上様…」


「よい。緊張していては、まともに会話も出来ぬ。打ち解けての時間としようぞ」


重ねてお殿様が言ったからだろうけど、控えていた人は「はっ」と頭を下げると、一度下がっていった。


「上様、お気遣い痛み入ります」

土方さんがそう言ったのを聞いて、わたしはまた頭を畳みにつくぐらいに下げて。

「ありがとうございます!」

と大きな声でお礼を言ったんだ。

すると、ちょっとだけ笑う声が聞こえて。

「威勢が良いな。だが、緊張し過ぎだ。力を抜いて話してくれ」

あと、ちゃんと顔を見て、な。と続いた言葉に、わたしはまた「はいっ」と深々頭を下げた。

「面を上げて」

と、笑いを含んだ声。

「はいっ」

私は、また下げそうになった頭を、こんどはゆっくりとお殿様の方に向けてあげた。



オーラっていうのかな。

半端ないんだ。

若いから、王様というより王子様がいるみたい。

ちょっとお顔の色が悪いようだけれど…。

「新鮮だな。面白い」

また笑みと共に言われたんだ。
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