輪廻ノ空-新選組異聞-
わたしは全てを行李に片づけた。
年表は絶対に見られちゃいけない。
でも、後でじっくり確認したい。
だから、それだけは懐紙に包んで懐紙入れに入れて懐に。

そして、一番隊の部屋を出て沖田さんの自室に向かった。


「まだ寝ていなかったんですか?」

障子を開ける前から、気配を察知した沖田さんに声をかけられた。

「入っていいですか…」

どうぞ、と立った沖田さんが、自ら障子を開けてくれた。

「沖田さん…」

目の前に立った、長身の沖田さんを見上げて…。
行灯の火に背後から照らされてる逆光の沖田さんだけど…見える表情は、昨日のような曇りはなくて。もう覚悟は決まってるんだなって…。そう思ったら言葉が出なくて…。

「どうしました?ひとりじゃ怖くて寝付けませんか?」

ちょっとからかうような口調。
でもすぐに訂正して。

「いえ、違いますね。どうしたんですか、そんな顔して」

「ひとりだと…色々、考えてしまって…」

本当の事は言えないから、つい、切れ切れに言った私を、沖田さんは室内に入れて障子を閉じた。

刀の手入れをしていたらしくて、道具が畳の上に出てた。
わたしは思わず唾を呑んだ。

「唐突にまったく違う世界に放り出されて、訳のわからない怒濤の日々を過ごして…急にひとりになったら…色々考えちまう」

自分にもそれはとても良く分かる、と沖田さんは口を開いた。

「あなたとはまったく規模が違いますけどね、私も九つの時、急に実家から試衛館にたった一人で放り込まれて、知らない大人ばっかりの中で下働きをしながら剣術修業でしたから」
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