輪廻ノ空-新選組異聞-
元旦早朝からの巡察は一番隊の担当。
わたしたちは揃いの黒い羽織を着込んで玄関に向った。

浅葱色に袖や裾を白抜きでだんだらに染め抜いた羽織は、目立ち過ぎること、野暮ったいことを理由に、土方さんが止めにしてしまった。確か土方さんがデザインしたって聞いたけど。

「おおい、蘭丸。一緒に一杯やらへんか?」

大広間の障子が開いて、同じ一番隊の伊木さんに声をかけられた。

「っと、沖田先生と一緒なんか」

「ありがとう、八郎さん。また誘って下さい」

大坂出身の伊木さんは、商家の出だけど、剣術好きで新選組に入隊してきた。私と同い歳の十八歳。人懐っこくて、ちょっと困ってるんだけど、お笑い芸人みたいで面白い。

「下の名で呼んでるんですね」

四条通りに出たあたりで沖田さんが呟いた。

「苗字は嫌いだって、返事してくれないから…」

あ…。

私は沖田さんの前に回り込んだ。

「嫉妬しました?」

「馬鹿な。いつの間にか、親しい人が出来たんだな、と、ちょっと驚いただけです」

「馬鹿って酷くないですか!」

思わず頬を膨らませる。

「寒さにはもう慣れたようですね」
「……は?」

一瞬の沈黙。

「っぷ」

思いっきり話題を変えた沖田さんに、思わず吹き出してしまった。

「火鉢だけじゃあ、全然暖かくないから、どうなる事かと思いましたけど、人ってちゃんとすぐに対応出来るようになるんですね」

もう平気です、と付け足して。

「で、今宵はどうしてわたしを誘って下さったんですか?折角の年越し、局長や副長、その他試衛館の皆さんと一緒ではなくて良かったのですか?」

「あなたと…」

年を越して、初詣をしたいと思ったんです。と、告げられた言葉に胸がドキンと高鳴った。



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