輪廻ノ空-新選組異聞-
「す、すみません」
私はようやく我に返って詫びた。
「沖田さんにだけは…そういう事で誤解は嫌で…」

告げたら、沖田さんは微苦笑して頷いて、わたしの前髪をくしゃと混ぜた。

「わかりました。誤解はしていませんよ」

私はその…と、わたしと視線を合わせないように言葉を継いで。

「そのような話題には疎い上に、大の苦手なんです。だから私も取り乱しちまった。すみません」

九歳から男所帯で育って、そのような…おなごの体の事などとは無縁でしたから、と、ようやくわたしと視線を合わせてくれた。

「土方さんなら大層詳しいでしょうから」

「え…詳しいんですか」

思わず聞き返す。

「母親代わりの姉上とは随分仲良くしていましたし、何より…あの見目と男振りの良さですからね…」

十一ぐらいからご存知の筈です。

「は?」

沖田さんはハッとして、これ以上は自分に聞かないで、土方さんに聞いて下さいと逃げた。

それと…と、小さな声で付け加える。

「勢いとは言え、あなただけがバレてしまっているのは、不公平ですからね」

沖田さんはわたしの耳許に唇を寄せた。

「私も筆おろしはまだです」

「ん…?」

筆おろしって何ですか?と問い返したわたしに、沖田さんは唖然として。

「今の会話で察して下さい」

ちょっと怒ったような顔をして。
「時は違えど、同じところに生まれて、こんなに言葉が通じないなんて…」

疲れたような表情。

「ご、ごめんなさい。本当にわからなくて…」

いいんですよ、と沖田さんは再び四条通へと出た。
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