輪廻ノ空-新選組異聞-
「とりあえず、そういった話題は土方さんに全部聞いて貰うとして…」

他には何かありませんか?と沖田さんはわたしを振り返った。

「……そうですね…。こまかな事ですけど…爪が伸びなくなった、とか…髪も伸びてないなとか…」

気になっていた事を並べたけれど…言ってもどうしようもないこと。自分の意思で伸びてるものじゃないし…。

「そうですか…それは、気になっちまいますね。心配だ」

何か要因があるとは思いますが…見当もつきませんね…、と申し訳なさそうに言ってくれて。わたしは首を振った。

「いつか、分かる時がくれば分かるでしょうし…とりあえず…さっきの件以外は余り気にしていませんから」

にしても、本当に冷えますね!八坂さんは人でいっぱいでしょうから、少しは寒さもも和らぐかな、と沖田さんを追い越して、四条通の東の突き当たりにある八坂神社を目指す人の流れに乗る歩調を速めた。


除夜の鐘。
ちょうど突き終わる頃に八坂神社の階の下に立った。

「お詣りをしたら…甘酒でも飲みましょう」

沖田さんの提案に頷いて、神殿へと向った。
沢山の人。
賑わいのある境内。

「初詣の光景は江戸と変わらない。こうしていると…昔の日常が戻ったようだ…」

沖田さんが呟くのが聞こえて。

「沖田さん…」

私は、そっと沖田さんの手を取って、ぎゅっと握った。

「皆で頑張れば、かならず太平の世になります。このわたしがその証明じゃないですか」

「そうですね」

「おさい銭入れて、お願い事しましょう!」

わたしはそのまま沖田さんの手を引っ張って、人の波を掻き分けてさい銭箱の前まで行った。

〈少しでも皆の役に立てて、そしてずっと一緒に生きていけますように…〉

現代に帰りたいと、来た頃は毎日思ってた。
でも今は……。
実現するか分からない、自分の時代への帰還より、沖田さんや、皆と過ごす事の方が大切で。

だから、心から願った。
〈皆と一緒にいられますように。沖田さんと…一緒にいられますように。わたし、がんばりますから〉
誓いも立てて……。
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