輪廻ノ空-新選組異聞-
ドスドスと廊下を歩きながら、ハッとする。

はあぁ~。
ダメダメ!
喜ばしいんじゃないか。
おなごと疑われない。それを目指してたんだから。

それに…
土方さんが言う通り、すぐ感情に走ってしまう。気を付けないと!


女を捨てて。


スラリと障子が開いて、一番隊の隊士部屋から伊木さんが出てきた。
「八郎さん、もう朝餉は終わったんですか」

「蘭丸か!元日の朝から足音荒く、誰かと思うやないか」

呆れたような顔。

「丁度良かった!!初稽古しよう!」
「はぁ?」
「相手、して貰いますよ」
「し、正気かいな!元日ぐらい…」
「新選組に盆暮れ正月はない!」

「難儀なお人やなぁ。己より強いんとは立ち合わん主義なんやけどな。自分が相手やったら、しゃあない」

こぼしつつも、サッサと道場に向かう足取りに、わたしはガッツポーズ。

気持ちが晴れない時、自分に活を入れたい時は稽古に限る。

「お酒は抜けてますか?」

くんくんと伊木さんの匂いを嗅いでみたが、思った程呑んでないみたいだ。さすがは新選組隊士。

いつ何時、召集が掛かっても働けるよう、深酒はもっての外、と皆心掛けてる。

隊規である局中法度で士道に背くと、切腹だから…なんだろうけど。酔って働けないなんて事になったら…!


道場に入ると、当然ながら誰もいない。皆、元日を楽しんでるんだろうな。試衛館の皆も、今夜は集まって酒盛りって言ってたし。

ダメだダメだ!
雑念を払って…!

平服の上に防具を着けた。竹刀を持って道場の真ん中に。

「行きます!」

見合ってすぐに間合いを取る。
気合いを発しながら切っ先を伊木さんに向け、最初から遠慮なくバンバン打ち込んだ。
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