輪廻ノ空-新選組異聞-
「…何をしているんですか」
大きい訳じゃないのに良く通る声が聞こえて、わたしは慌てて上に被さっている伊木さんを巴投げにして起き上がった。
「沖田さん」
え~と、あの…
と、言葉に詰まる。
見た事もない蒼白な沖田さんの顔。
「私闘やおまへん!!」
伊木さんも気付いて起き上がると、正座になって真顔だ。
それぐらい沖田さんの顔は尋常じゃなかった。
「初稽古や言うて、剣術の後、柔術を」
「ちょっと…ふざけてしまいましたが…」
わたしもボソッと付け加える。
「まったく…」
肩から力を抜いて、呆れた声で漏らした沖田さん。
「すんまへん」
伊木さんは平伏だ。
新選組の局中法度では私闘をしても切腹。それを恐れたんだと思うけど…
わたしは沖田さんに無用な心配と驚きを生じさせてしまったから、平伏した。
「すみませんでした」
わたしがおなごだと知っている沖田さんから見たら、襲われてるように見える。怒りの表情よりも、蒼白になっていた顔が物語ってた。
「不問にしますが…道場は神聖な場所。弁えて下さい」
「わかりました!」
揃った声で返事をして、もう一度頭を下げた。
「では、もう良いですよ」
いつもの空気に戻ったようで、どことなく元気が無いような沖田さん。
「あの…」
大丈夫ですか、とは言う資格はないけれど、声をかけた。
「蘭!行くで」
気付かなかったのか、伊木さんの大声。
「行くってどこへ!」
「八坂」
「すぐ追い掛けます。行ってて下さい」
「約束やで」
言い残し、道場を出ていく背を見てから沖田さんに向き直った。
「本当にすみませんでした」
「襲われているのだと思って…魂が抜けるかと思っちまった」
まったくあなたは…、と、沖田さんはわたしのほっぺたをぎゅっと摘まんで。
「困った人ですね」
側にいても危なっかしくて心配になるし、いなければいないで心配だ、と苦笑を向けられた。
「すひまへん…」
ほっぺたを摘ままれたままで、言葉の空気が抜けた。
「あっ、すみません!気安く摘まんで」
「いいえ」
触れられるのは嫌じゃないから。寧ろ…何だか嬉しい。
大きい訳じゃないのに良く通る声が聞こえて、わたしは慌てて上に被さっている伊木さんを巴投げにして起き上がった。
「沖田さん」
え~と、あの…
と、言葉に詰まる。
見た事もない蒼白な沖田さんの顔。
「私闘やおまへん!!」
伊木さんも気付いて起き上がると、正座になって真顔だ。
それぐらい沖田さんの顔は尋常じゃなかった。
「初稽古や言うて、剣術の後、柔術を」
「ちょっと…ふざけてしまいましたが…」
わたしもボソッと付け加える。
「まったく…」
肩から力を抜いて、呆れた声で漏らした沖田さん。
「すんまへん」
伊木さんは平伏だ。
新選組の局中法度では私闘をしても切腹。それを恐れたんだと思うけど…
わたしは沖田さんに無用な心配と驚きを生じさせてしまったから、平伏した。
「すみませんでした」
わたしがおなごだと知っている沖田さんから見たら、襲われてるように見える。怒りの表情よりも、蒼白になっていた顔が物語ってた。
「不問にしますが…道場は神聖な場所。弁えて下さい」
「わかりました!」
揃った声で返事をして、もう一度頭を下げた。
「では、もう良いですよ」
いつもの空気に戻ったようで、どことなく元気が無いような沖田さん。
「あの…」
大丈夫ですか、とは言う資格はないけれど、声をかけた。
「蘭!行くで」
気付かなかったのか、伊木さんの大声。
「行くってどこへ!」
「八坂」
「すぐ追い掛けます。行ってて下さい」
「約束やで」
言い残し、道場を出ていく背を見てから沖田さんに向き直った。
「本当にすみませんでした」
「襲われているのだと思って…魂が抜けるかと思っちまった」
まったくあなたは…、と、沖田さんはわたしのほっぺたをぎゅっと摘まんで。
「困った人ですね」
側にいても危なっかしくて心配になるし、いなければいないで心配だ、と苦笑を向けられた。
「すひまへん…」
ほっぺたを摘ままれたままで、言葉の空気が抜けた。
「あっ、すみません!気安く摘まんで」
「いいえ」
触れられるのは嫌じゃないから。寧ろ…何だか嬉しい。