輪廻ノ空-新選組異聞-
「愛らしいな…」

「言われて気付いたが…。湯屋にも一緒に行った事がなかった」

「稽古の後の行水姿も一度も見たことがねぇな…」

「毎日精一杯だったんですよ、蘭丸は…。私も最初は厳しく接しました。どうしても…おなごのようになるから…」

「この項…。白くて、やはり男とは違って細い。襟足の後れ毛が…おなごのようだ」

「だから、おなごだって」

「伊木には気を付けた方が良い。衆道の気がある。今朝も須藤の項に見蕩れていた」

「本当ですか、齋藤さん!?」

「それより、水を飲ませねぇと、死んでしまう。こんなに呑んだのは初めてだろ」

「わしが水を取ろう…」

「こりゃあ…こんだけ昏睡してると、自分では飲めないぞ」

「口移し…?」





「うっ」

あ、頭が…割れそう…っ。
わたしは起き上がりかけて、余りの頭痛に再び枕に頭を落とした。
気持ち悪い…。

えっと…昨夜……皆と……。

光が異様に眩しいんだけど…。
細く開けた目で辺りを見回すと、きちんと一番隊の室で自分の布団に入っている。

「皆…いない…」

一番隊は…確か…朝一番の巡察……。

「置いてかれた……」

ショックの余り、益々起き上がれない。
深酒で…二日酔いで隊務に穴を開けるなんて……。最低だ…。今まで頑張ってきたのが、一瞬で崩れ去ってしまったみたい…。

「……っぅ……っふ」

涙が溢れて。
士道不覚悟。

切腹…?

しゃきっとしないと…。
とにかく、一刻も早く。

気合いを入れて起き上がる。
ぐらぐらする頭に歯を食いしばって。
寝間着……。だ、誰が着替えを…!?
あ、そうか…。もう昨日の面々には……明かしてしまったんだ、おなごだと。

精一杯の早さで着替えを済ませ、室を出た。
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