輪廻ノ空-新選組異聞-
で、とトシさんは改めてわたしを見据えた。

負けじとにらみ返してあげるよ!

「おめぇ……」

と、急にもっと怖い顔と声になった。

「な、何ですか」

その胴着はどうした、と続けて急に腕を伸ばしてわたしの胸倉掴むとコンドーさんの方に引っ張った。

「ちょっ、やめ…っ」

ばたり。

わたしはもちろん畳に倒れ…そうになったけど、余りに強い力で引かれて、体は持ち上がったまま。

「天然理心流…」

コンドーさんの呟き。
それに続いて覗き込んだ沖田さんからも同様の呟き。

私の着ている紺色の胴着の左胸のところには、オレンジ色の糸で「天然理心流」と縫い取りがしてある。それに気付いたんだろうけど…。乱暴だよっ。

「もう、放してくださいっ!」

私は咄嗟に胴着を結ぶ紐を解いて衿を弛めると、ようやく出来たゆるみから体を起こした。

「欲しいならあげます」

胴着を着ける時はブラジャーはつけない。
代わりにカップ入りの白のタンクトップを着けている。気兼ねなく中で胴着をとめている紐も解くと、呆然としながらも胴着の衿をつかんだままのトシさんそっちのけで胴着から腕を抜いて脱いでしまった。

「お、おめぇは…!
 おなごがはしたねぇ!
 羞恥心もねぇのか」

トシさんは掴んでいた胴着を私に投げてよこした。

「なんてぇ下着を着けてやがる」

「はは、良いものを見たな。妙な着物だが」

コンドーさんは暢気だ。

「おふたりとも!そのような事を言ってる場合ではありませんよ」

という沖田さんの声でトシさんもコンドーさんも咳払いだ。
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