輪廻ノ空-新選組異聞-
「山南さんが真を傾け惚れ抜いているそなたを見込んでの頼みなのだ。この事は隊内でも幹部の一部しか知らぬ機密事項だ」

土方さんは、わたしと明里さんの驚きをスルーして、淡々と続けた。

「わかりました」

明里さんは、きゅっと唇を噛みしめて、表情を改めると頷いた。

「心してお引き受けさせて貰いまひょ」

「ありがとう」「忝ない」

土方さんと山南さんの謝意の言葉が同時に。

「そないに、恐縮どす」
明里さんは首を振った。

「総司。この場に連れてきたのは、口で説明するより同席した方が早いと思ったからだ」

あらかた飲み込めただろう、という土方さんの問いに、沖田さんは頷いた。

「伊木さんと蘭丸を夫婦に仕立てて、旅籠に潜入させ、近頃暗躍の目立つ過激派浪士の取締りと…身内の密偵の誅罰を行う…ですね」

沖田さんは一度言葉を区切ってからわたしを見た。

「身内の密偵の誅罰…大変な役目です」

わたしは沖田さんの重々しい言葉に心臓が止まりそうな程、大変な役目を負ったのだと気付いて。

なんて鈍いんだ、わたしは。

わたしにしか出来ない。

土方さんは副長室で変に女装の話題で茶化すから、売り言葉に買い言葉になって、ちゃんと考えていなかったけど…

伊木さんはわたしに唯一気を許していて、上から目線で私を見くびっている。

それを利用すれば、過激派浪士側からの密偵である伊木さんと、過激派浪士どちらもやっつけちゃえる大きな好機。

でも…失敗すればとても危険。

わたしはゴクリと唾を飲んだ。
< 81 / 297 >

この作品をシェア

pagetop