輪廻ノ空-新選組異聞-
渡月橋と言う橋。
ガイドブックで見た記憶がある。そのままの佇まいだけど…。

「人が全然いない。店も殆どない」

わたしの時代では凄い観光地なんですよ、とキョロキョロしながら言った。

見えるのは地元の人かな、桂川で釣りをしている人だけ。

「梅は終わって、桜の季節の手前ですしね」

こんな時節ですし、無闇に出歩く人もいないのかも知れません、と沖田さんは欄干に身を預けながら答えた。

「そうですね。でも…十分に美しい風景です…」

余計なものがない、風景画みたいな景色。

「桜の季節じゃないのは残念ですが、最後かも知れないし、こんな綺麗な景色を見られて良かった」

「最後かも知れない…って」

沖田さんは体を起こしてわたしに視線を向けた。

「死ぬかも知れない、と思っているのですか?それとも」

自分の時へと帰ってしまうと?と沖田さんは真剣な眼差しで。

「帰ってしまうとは思ってません。帰りたいとは…もう思ってませんし」

「では死ぬ、と?」

それは…、とわたしは一瞬言葉を飲んだ。

「未熟ですから。敵地にあって味方はいない場に身を置く上、女装ですし」

ヘマをすれば生きて帰られないと覚悟しています、と。

「そんな覚悟、しちまっては駄目だ」

いつになく厳しい物言い。

「生き抜いて、また戻るのだと強く念じる事こそ第一」

こういう事も含めて、あなたには伝えたかった事が沢山あります。と、沖田さんは続けた。
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