輪廻ノ空-新選組異聞-
「命のやり取りの場にあって、いかに前向きになるかは大切です」

「モチロン、後ろ向きな気持ちでは…ない…」

ん、ですけど…

「といいますか…何も考えてませんね、よく考えたら」

「それでいいんですよ。死にたくない、と思っていては、身体はうまく動きません」

沖田さんも頷いて。

「でも、それは恐怖という雑念を伴ってそう思う時です。ですから…」

あなたには…私の目の届かないところでも、常に…生き抜くための気持ちで、いらぬ雑念を捨てて欲しいと思っています、と沖田さんは続けた。

「はい」

生き抜いて欲しい、と強く言ってくれる沖田さんの気持ちが嬉しくて…。

大切に思って貰えているのかな、って、ちょっと自惚れてみたり…。

……自惚れ、じゃないよね…?

「沖田さん…」

生き抜くつもりですし、ちゃんとまた役儀を終えて沖田さん達の所に帰るつもりです。でも、こんな時だから、言っておきたい事もあります。

わたしは沖田さんの目を見つめた。

土方さんとか原田さんみたいな男前なんかじゃなくって、むしろ愛郷のある顔立ちかな。ふざけてヒラメ、なんて言う人もいるけど…笑うと凄く優しい顔立ち。剣を手にすると、全てを見透かすような鋭い顔立ちになる。

今は…ちょっと気持ちは読み取れないけど…本当に普通に穏やかな瞳で私を見返してくれてる。

「まずは何より…感謝の気持ちで一杯なんです」

最初の頃のわたしは、性根が据わらないし、甘ったれだし、泣いてばかりいた。

「それでも、それこそ生き抜くために、剣術の稽古を最大限の時をわたしにくれてつけてくれました」

いつも気にかけて下さって、どれだけ支えて貰えているか。

「もう自分の時に帰りたいと思わなくなったのは…沖田さんがいて下さるからです」

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