輪廻ノ空-新選組異聞-
「須、藤……」

藤が難しすぎる……。

蘭も難しいよなぁ…。

お手本…沖田さんに書いて貰おう。

と、思っていた所に沖田さんが戻ってきた。

「……字の稽古ですか?」

湯気が残る沖田さんが背後からわたしの手元を覗き込んで。

「はい。自分の名前ぐらい書けないと。あ、わたしもお風呂に行ってくるので、お手本にわたしの名前を書いておいてくれませんか」

「お安いご用です」

沖田さんは嬉しそうに笑顔になって、頷いてくれた。

良かった。
気まずくならない空気。

私は手拭いを持って室を出た。


お湯は丁度良い加減で。

沖田さんは何を思って浸かってたのかな…とか。色々ぐるぐる。

念入りに身体を洗いながら、良い香りのボディソープのない事が…こんなに悔やまれたことはない。普通に石鹸すらないし…。ううっ。

落ち着かないし、でもサッサと出るのもどうかと思われて。

ある程度浸かって、きちんと暖まったあたりでお風呂を出た。

脱いだ着物をたたんで、本当に誰もいないか確かめてから真っ白の浴衣に袖を通す。

もうずっと腰と胸に晒を巻いて寝ていた。

寝間着は二枚重ねで透けないようにして、肩巾も出るようにパッドみたいに仕込みを作って中に縫いつけてた。

でも、今夜は普通に一枚。
誰にも見られないよう
用心して。
そして、室に戻った。

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