輪廻ノ空-新選組異聞-
「お手本、書いて頂けましたか?」

私は室に入って、沖田さんの背中越しに手元を覗き込んだ。

「お帰り」

沖田さんは言って、一枚の紙を見せてくれた。

「あっ、すごい。かっこいいなぁ」

行書、というのだったかな、うねうねと繋がった文字。それで私の名前が何種類か書きつけてあった。

「ありがとうございます。真似して書けるかな…」

私は沖田さんの隣に腰を下ろした。

筆を持って、横に置いたお手本を睨みながら筆を構える。

「えーっと、こう行って、こう……?」

悩んで手が止まっているうちに、墨が一点に溜まってしまう。

もう一度。

はう、駄目だ。

「字の書き順と、形を考えれば自然とこういうくずし字になりますよ」

沖田さんは一度立ち上がると、私の後ろで屈んでかぶさってきて。

「私があなたの手に手を添えて書きますから、動きを覚えて下さいね」

と、私が筆を持つ手に自分の手を添えて…。

「…っ、冷たい」

しっとりと冷えきった手。

「あ、すみません」

沖田さんは苦笑して手を引っ込めた。

お風呂上がりなのに!

「湯冷め?」

慌てて沖田さんが引っ込めた手を掴んで握る。

「いえ、緊張して…」

そう言えば…緊張すると…手が冷えて、冷や汗でイッパイになる。道場での試験の時とか、音楽の歌のテストでクラス全員の前で歌わされる時とか…色んな緊張の機会にそうなっていた事を思い出す。

「沖田さんも、緊張してたんですね…!」

私は両手で沖田さんの手を包み込みながら、思わず、自分だけじゃなかったんだって安心して。

「当たり前です。初めて、ですから…」

「え…」

「あっ、でも…、周りに経験豊富な先達が多いので、際どい話に接する機会は多くて…恐らく…耳年増です」

「土方さん、とかでしょうか」

思わず笑ったら、沖田さんも笑って。

「はい」
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