輪廻ノ空-新選組異聞-
わたしの背後で屈んだままかぶさった状態だった沖田さんの顎が、わたしの肩に乗せられた。

「お互い初めて、ですね」

耳元で響いた沖田さんの声に、一気にドキドキが高まる。

「はい…」

私は握っていた沖田さんの手を更にギュッと握って。

沖田さんはその私の手ごと、自分の手を引くと、持ち上がった私の手の甲に、チュと唇を押し付けた。

「こんなに…誰かを愛しいと思った事はありません」

言って、空いた方の左手で、私の身体をぎゅっと抱き締めてくれた。

「わたしも、です」

私は狭い空間で、ちょっと身体をずらしてすぐ横の沖田さんの方に顔を振り向かせて答えた。

沖田さんの唇がその私の頬に触れて、そして次に唇と唇が……重なった。

重なって……

ハッとした。

「あ…!………接吻は初めてじゃなかった……」

土方さんが…口移しで水を……というのを思い出した。

「土方さんが!?」

驚いた沖田さんが唇を離して、オウム返しに。

「元日の宴会で…私に口移しで水を飲ませてくれたそうなのですが…私は…その、それが…初めての接吻…みたいで…」

がっくりと肩を落として答えた。

「え……」

短い声で反応した沖田さん。

でも次には私の身体を反転させて向かい合わせになると、ぎゅっと抱き締めて。

「あなたに口移しで水を飲ませたのは、私です」

「ええっ!?」

目がパチパチする。

言われてみれば…土方さんは自分が飲ませた、とまでは言わなかった。
それに…あの目覚めた朝、駆けつけてきた沖田さんは…私を見て真っ赤になっていた。あれは、自分がしたからだったんだ…!

「接吻も…互いに初めての相手になれましたね」

嬉しそうな沖田さんの顔。

私もつられて照れ臭いながらも笑顔になった。



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