BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
1.スコーク
日本との時差は十七時間。ここロサンゼルスは、今日も天候に恵まれていた。
しかし、心地のいい気候を感じる余裕もなく、彼女――大和月穂(やまとつきほ)はホテルのフロントでコンシェルジュ相手に、慣れない英語で必死に質問を繰り返していた。
「え? 今、なんて?」
目的地まで交通機関をどう利用すればいいのかを尋ねているのだが、返事をうまく聞き取れない。
月穂は、思わず日本語が出るくらい困惑していた。そのとき、誰かに肩に軽く手を置かれる。
「Please, can you switch with me?(私が代わりましょうか)」
月穂は綺麗な英語の発音に顔を上げる。隣でコンシェルジュにそう言ったのは、見知らぬ男性だった。
髪や肌の色から、同じ日本人に見受けられる。
月穂がびっくりしたのは突然声をかけられたせいだけではなく、彼の目鼻立ちやスタイルの良さも驚いた理由だ。
模様ひとつないシンプルな黒のカットソーなのに、とても魅力的に見える。それは、彼が雑誌やテレビで観るような美しい顔だからだろう。
「これからひとりで観光するのか?」
彼が次に発した言葉は日本語だった。月穂は『やっぱり日本人なのだ』と思い、安堵する。
「観光は時間があれば。私、行きたいところがあって」
「移動はバスや電車ではなく、タクシーを使え。それと、暗くなる前にはここへ戻ったほうがいい」
彼は淡々と言うと、コンシェルジュとなにか話をし始める。月穂は茫然として彼の背中を見つめていた。
「タクシー呼んでもらった。行こう」
彼は振り向くなり用件を簡略に告げ、颯爽と出口へ歩き始める。月穂は慌てて彼を小走りで追う。
少し離れたところから彼の後ろ姿を見ると、外国のホテルのロビーでも見劣りしないほどスタイルがよく、モデルのようだった。すれ違う宿泊客の女性たちが、次々と目を奪われている。
(この人、容姿だけでなく、きっと頭もいいんだろうな。英語も流暢だったし、会話の仕方も無駄がないし)
ホテルを出たところで足を止める。すると、ちょうどタクシーがやってきた。彼は後部ドアを開き、月穂へタクシーに乗るよう促した。そして、運転手に英語で行き先を告げてドアを閉める。
月穂はお礼のタイミングを失いそうになり、慌てて窓を開けた。
しかし、そこで先に口を開いたのは彼のほうだった。
「帰りは近くのレストランかショップでタクシーを呼んでもらって」
至れり尽くせりの案内に、月穂は深く頭を下げた。
「あっ、ありがとうございます」
月穂が顔を戻したときには、すでに彼は背を向け、遠のいていく。
月穂は、ややしばらく彼の背中を目で追っていた。
しかし、心地のいい気候を感じる余裕もなく、彼女――大和月穂(やまとつきほ)はホテルのフロントでコンシェルジュ相手に、慣れない英語で必死に質問を繰り返していた。
「え? 今、なんて?」
目的地まで交通機関をどう利用すればいいのかを尋ねているのだが、返事をうまく聞き取れない。
月穂は、思わず日本語が出るくらい困惑していた。そのとき、誰かに肩に軽く手を置かれる。
「Please, can you switch with me?(私が代わりましょうか)」
月穂は綺麗な英語の発音に顔を上げる。隣でコンシェルジュにそう言ったのは、見知らぬ男性だった。
髪や肌の色から、同じ日本人に見受けられる。
月穂がびっくりしたのは突然声をかけられたせいだけではなく、彼の目鼻立ちやスタイルの良さも驚いた理由だ。
模様ひとつないシンプルな黒のカットソーなのに、とても魅力的に見える。それは、彼が雑誌やテレビで観るような美しい顔だからだろう。
「これからひとりで観光するのか?」
彼が次に発した言葉は日本語だった。月穂は『やっぱり日本人なのだ』と思い、安堵する。
「観光は時間があれば。私、行きたいところがあって」
「移動はバスや電車ではなく、タクシーを使え。それと、暗くなる前にはここへ戻ったほうがいい」
彼は淡々と言うと、コンシェルジュとなにか話をし始める。月穂は茫然として彼の背中を見つめていた。
「タクシー呼んでもらった。行こう」
彼は振り向くなり用件を簡略に告げ、颯爽と出口へ歩き始める。月穂は慌てて彼を小走りで追う。
少し離れたところから彼の後ろ姿を見ると、外国のホテルのロビーでも見劣りしないほどスタイルがよく、モデルのようだった。すれ違う宿泊客の女性たちが、次々と目を奪われている。
(この人、容姿だけでなく、きっと頭もいいんだろうな。英語も流暢だったし、会話の仕方も無駄がないし)
ホテルを出たところで足を止める。すると、ちょうどタクシーがやってきた。彼は後部ドアを開き、月穂へタクシーに乗るよう促した。そして、運転手に英語で行き先を告げてドアを閉める。
月穂はお礼のタイミングを失いそうになり、慌てて窓を開けた。
しかし、そこで先に口を開いたのは彼のほうだった。
「帰りは近くのレストランかショップでタクシーを呼んでもらって」
至れり尽くせりの案内に、月穂は深く頭を下げた。
「あっ、ありがとうございます」
月穂が顔を戻したときには、すでに彼は背を向け、遠のいていく。
月穂は、ややしばらく彼の背中を目で追っていた。
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