BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
病院前に待機していたタクシーに乗り込み、月穂の自宅へ向かった。
 もちろん、隣には夕貴も一緒に座っている。

 しばらくは会話もなく、月穂は自分の手元に視線を落とし、夕貴は窓の外を眺めていた。

「ああ、久々に地上からの夜景をゆっくり見てるなあ」

 夕貴がぽつりとつぶやいた。
 街並みから視線を外さずにいる夕貴を、月穂は横目で見て答える。

「いつも空から見下ろしているんですもんね。上からの景色は見慣れちゃいましたか」

 すると、彼は少し間を開けてから夜空を見て言う。

「そうだね。慣れ過ぎて、それが当たり前だと思っていたかも」

 そんな会話を最後に、またふたりの間には沈黙が流れる。

 約三十分後、車内で九時を回った。
 月穂の自宅が近づいてきたところで、月穂が口火を切った。

「櫻田さん。こんな流れでお願いしづらいんですけれど……」
「なに?」
「無神経だってわかっています。でも……。隼さんの連絡先を教えていただけませんか?」

 月穂は膝の上の紙袋を、ぎゅっと抱きしめた。
 微妙な空気が流れる中、やはり月穂は祥真のことが頭から離れずにいた。

 どうにか彼と連絡を取れる手段を……。

 それを夕貴に聞くという選択は、羞恥や罪悪感でいっぱいだ。
 それでも、その苦しい思いを抱えて車に揺られながら、ついに決心したのだった。
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