BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
「ありがとうございました」

 店主に恭しくお辞儀をする店主の前を、祥真は会釈をした。

 きっかり八時にカフェを出たものの、次に行く先など考えていなかった。

 とりあえず目に入ったCDショップの看板に引かれるように、足を踏み入れた。
 その店は、CDやDVDだけではなく、書籍も取り扱っている。

 祥真は目的もなくふらりと書棚を順に回っては、興味がある本に手を伸ばし、ページを捲った。
 それをしばらく繰り返していたのだが、ちっとも本の内容が頭に入ってこない。

 自分の心がここにないことに、いよいよ落ち着かなくなって店を出ようとしたとき、ジーンズのポケットに入れてある携帯が音を上げた。
 祥真はディスプレイを確認すると、すぐに店を出た。

「はい」

 応答しているのに、スピーカーからはなにも聞こえてこない。不審に思って僅かに眉根を寄せる。

「夕貴? なんか用か?」

 祥真の言葉が少ないのはいつものことだが、今日はいつにもまして淡々としている。
 それは、約束していた月穂が現れなかったことによる苛立ちからだった。

 無意識に腕時計に目を落とし、カフェを出てからもう一時間が経ったことを知ると、もう月穂はやってこないのだろうと思った。

 すると、祥真は得も言われぬ感情が胸の中を巡り、さらに余裕がなくなった。
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