BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
「おい。なにもないなら切るぞ」
『大和さんってさ。ほんといい子だよなあ』

 突然、月穂の名前を出され、ドキリとした。

「なんだよ、それ……。突拍子もない」

 それでも、夕貴に動揺を悟られない程度には、平静を保って返事ができる。しかし、次の夕貴の言葉を聞くのに勇気がいった。

『今彼女と別れたとこなんだけど、改めてそう思って。この間も絆創膏巻いてくれたけどさ。あれ、いいところ見せようとかそういう下心なく素でやってくれてたし』

 祥真の気持ちなど構わず、夕貴はまるで自慢話でもするかのようにぺらぺらと話をする。
 その内容を聞いて、祥真はなにも言わずに携帯を握る手に力を込めた。

『本当。ほかの女の子と違うなって思うとこがいっぱいあってさ』
「彼女を誰かと比べたりするな」

 ふいに、祥真が憤慨して言った。

 祥真自身も、頭で考えるよりも先に口が動いたという感じで、言ってしまってから戸惑っていた。

「あ、いや……。ただ彼女は、周りと同じようにできない自分を責める傾向にあると思うから」

 祥真の脳裏に『誰かと同じである必要はないんじゃないですか?』と言ってくれたときの月穂の顔が浮かんでいた。

 月穂からはっきりと聞いたわけではない。

 けれど、祥真はあのときから、彼女は過去に『誰かと同じようになりたい』『ならなければならないのに』という感情を抱いていたのではないかと思っていた。

 そこを乗り越えて、あの言葉を他人にも、おそらく自分自身にも言えるようになったように感じていた。

『へえ。いつもは誰にも興味を示さない祥真が、彼女のことはよく知ってるんだな』

 途端に夕貴は冷笑し、核心をついてくる。
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