BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
月穂が夕貴にどんな表情でなにを話したのか。

 祥真はこれまで、こんなに異性の動向を気にした覚えがない。
 なんの緊張かわからないが、鼓動がさらに速まるのを感じていた。

『〝隼さんの連絡先〟を』

 緊張が高まっていたところに聞こえてきた言葉に、祥真は固まった。
 月穂が夕貴に自分の連絡先を訪ねたことを、どう捉えていいのかわからなかったのだ。

 茫然としていると、夕貴は言った。

『でも教えなかった。だって祥真は、勝手に、しかも女の子に連絡先を教えるの嫌がっていただろ?』

 祥真は自分と月穂の距離を、そう簡単には近づけさせないと宣戦布告されたと感じ、見開いていた目を伏せて静かに答える。

「わかった。用はもう済んだか?」
『……まあ、大体』
「そう。じゃあ」

 祥真は呆気なく通話を切ると、住宅街へと歩き出した。黙々と道を行っていたが、ぴたりと足を止めた。

 月穂の自宅マンションは、以前送り届けたことがあるから知っている。でも、部屋まではわからない。

 今、彼女のマンションまで行ったところで、いつ月穂が出てくるかも会えるかもわからないのに、それは効率的ではない。

 第一、相手の気持ちをきちんと言葉で聞いたわけではない。
 そんなふうに追いかけるのも自分のエゴであって、月穂は迷惑だと思うに違いない。

 現に、今日の約束を反故し夕貴を優先したのはそういうことだろう、と祥真は決めつけた。

 ふと、『けれど、彼女は夕貴に自分の連絡先を聞いたのだ』と思い出す。

 しかしそれも、月穂の性格上ひとこと詫びを入れようとして聞いたことだ、と解釈した。
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