BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
6.ファイナルアプローチ
その日は週の中日。月穂は院内にいた。

 乃々とは顔を合わせていない。
 元々、向こうからいつも声をかけてくる感じで、月穂が彼女の姿を見ることはほぼなかった。

 なにより、乃々を責める気持ちどころか、自分は彼女に対し、嘘をつき続けていた罪悪感を抱いていた。
 むしろ、今後どう乃々に接し、許してもらうべきか思い悩む。

 そして、そのもどかしい思いは、月穂の胸に何度も針を刺す。ちくちくと心を痛め、自分を貶める。

 こんなことになってもなお、祥真の存在は色濃く鮮やかになる一方。
 彼との関係を修復したい一心で、翌日の土曜から今日までずっと、月穂は携帯を手放さなかった。

 実はあの日、夕貴に祥真の連絡先を聞いて断られたとき、月穂は一旦引き下がったのだが、そのあと、お願いをこう言い換えていた。

『私の連絡先を隼さんへ伝えてください』――と。

 月穂は回想しながらぼんやりと入院病棟を歩く。怪我をした日から使い続けている松葉づえは、そこそこうまく使えるようになった。

 公衆・携帯電話スペースを通りがかったところで足を止め、ポケットの中から携帯電話を取り出した。なんの変化もない携帯を操作しては肩を落とす。

 数日経っても、『もし』が消えない。

 月穂は携帯を両手で強く握り、足元をぼんやり見つめた。

 もし、足さえ怪我をしていなければ。

 月穂は何度も唇を噛んだ。
 本心では、足を怪我していたって、這ってでも祥真に会いに行きたいと思っていた。

 けれど、そうすれば、道中なにかあったときに他人に迷惑をかけるかもしれない。
 余計に足を悪化させれば、花田にだってさらに迷惑がかかる。

 それに、そこまでして祥真のところへ行っても、彼も仕事や予定があるだろうから迷惑でしかないかもしれない。

 いろんなことを想像しては、自分で自分をがんじがらめにして動けなくしていた。

 もうあれから五日が経つ。

 そろそろ祥真から連絡が来るかも、という期待は諦めどきだ。
 大体にして、彼は今日本にいないのだから。

 けれども頭でわかっていても、心がそれを許さない。

 ガラガラと看護士がワゴンを押して歩く音にハッとして、月穂は顔を上げる。
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