BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
「え? あれ? いないな。夕貴、なんか聞いてる?」

 谷川が尋ねると、視線が一斉に夕貴に向いた。しかし、夕貴はぶんぶんと首を横に振る。

「あー……ごめんね。彼はちょっと、こういう飲み会が苦手なタイプだから。気を悪くしないでくれるかな」

 夕貴が謝ることではない。だが、雰囲気を悪くしないようにという心遣いのつもりなのだろう。

「そんな、気を悪くなんかしないですよ!」

 女性の内ひとりがそう答えると、夕貴はホッとした顔で「ありがとう」とひとこと返した。

 月穂はみんなから少し離れたところで、もう一度周りを眺める。
 すると、賑わう街中に紛れていく祥真の後ろ姿を捕えた。彼を無意識に目で追い続ける。

「カラオケ、予約取れましたよ」
「おお。それじゃ行こうか」

 携帯を切った谷川が金田に伝え、みんなで移動を始める。けれども月穂は動かずに、遠くなっていく祥真の後頭部を見つめていた。

「あ。俺は大和さん送ってから合流しますから、先行っててください」
「えっ」

 突然自分の名前が聞こえ、祥真から視線を外した。

「駅まで送るよ」

 月穂は、にこやかに笑って申し出る夕貴に狼狽する。合コンが初めてだから、初対面でこんなふうに優しく『送るよ』と言われることなど経験がない。

「いえ。お気持ちだけいただきます。櫻田さんが抜けてしまうと男女の比率が合わなくなるでしょうし。少し立ち寄りたいところもありますので」

 月穂が精いっぱい理由を考え、丁重に断ると、夕貴は申し訳なさそうに口を開く。

「……そう?」
「はい。今日はありがとうございました。失礼します」

 合コンらしからぬ堅苦しい挨拶をする月穂に、夕貴は目を丸くした。

 月穂は踵を返し、祥真が去っていった方向へ急いだ。
 背の高い祥真なら、すぐに見つけられるかと思ったが、人混みで彼を見失った。月穂は喧騒の中、立ち止まる。

(別になにか言いたいことがあったわけでもないじゃない)

 なぜ彼の後を追おうとしたのか。追ってどうしようとしたのか。

 結局その結論は出ないまま、月穂は家路についた。
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