BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
月穂がムッとすることなく優しく目を細め続けて言うものだから、祥真は引っ込みがつかなくなったようだ。
「こっちは毎回数百人の命を預かって仕事をしている。ここで少し話したくらいで気分転換できるようなものじゃない」
理由はわからなくても、祥真のきつい口調から、彼が苛立っていることは明確だった。
それでも月穂は嫌な顔ひとつせず、今日一番の柔らかな表情を見せた。
「あの日。あなたが私をニューヨークへ連れて行ってくれたんですね。ロサンゼルス行きの機内アナウンスで、副操縦士の名前を紹介されているのが耳に残っていました」
突然言われたことに、祥真は目を見開く。
祥真は、自分の棘のある言葉に月穂が落ち込んだり、立腹したり……もしくは、涙を浮かべるだろうかと想像していたのだろう。
そんな予想を裏切り、月穂が穏やかに笑うものだから、祥真は困惑した表情を浮かべていた。
「隼という名前がとても印象的だったんです。ハヤブサのように飛行機を飛ばすのかな……なんて想像してしまって」
月穂は目を伏せ、約一か月前のことを思い出す。
「あのとき、ホテルで声をかけてくださって……。リトルトーキョーにあなたがいてくれて、本当に私は幸運でした」
(じゃなきゃ、今、私はきっとここにいない)
閉じた瞼の裏に、祥真と出会った日のことがありありと蘇る。
「ずっと、お礼を言いたかったんです。ありがとうございました」
いつしか仕事を忘れ、私情に突き動かされていた。しかし、そのことに月穂は自分で気がついていない。
祥真は急に感情豊かに話し出す月穂にどぎまぎとしていた。
「いや……。あの街にある寿司屋に知り合いがいるから、たまたま……」
「そうだったんですね。では、その方にも感謝しなければ」
直後、祥真はいきなりソファから立ち上がる。
「隼さん?」
「もう戻る」
祥真はひとこと答え、顔も見ずにドアへ足を向ける。月穂は慌てて席を立ち、祥真に声をかけた。
「今日も一日お疲れ様でした。貴重なお時間いただきまして、ありがとうございます」
下げた頭を戻すと、祥真がなにか言いたげな瞳をしている。けれども、祥真はそのまま部屋を出ていってしまった。
「こっちは毎回数百人の命を預かって仕事をしている。ここで少し話したくらいで気分転換できるようなものじゃない」
理由はわからなくても、祥真のきつい口調から、彼が苛立っていることは明確だった。
それでも月穂は嫌な顔ひとつせず、今日一番の柔らかな表情を見せた。
「あの日。あなたが私をニューヨークへ連れて行ってくれたんですね。ロサンゼルス行きの機内アナウンスで、副操縦士の名前を紹介されているのが耳に残っていました」
突然言われたことに、祥真は目を見開く。
祥真は、自分の棘のある言葉に月穂が落ち込んだり、立腹したり……もしくは、涙を浮かべるだろうかと想像していたのだろう。
そんな予想を裏切り、月穂が穏やかに笑うものだから、祥真は困惑した表情を浮かべていた。
「隼という名前がとても印象的だったんです。ハヤブサのように飛行機を飛ばすのかな……なんて想像してしまって」
月穂は目を伏せ、約一か月前のことを思い出す。
「あのとき、ホテルで声をかけてくださって……。リトルトーキョーにあなたがいてくれて、本当に私は幸運でした」
(じゃなきゃ、今、私はきっとここにいない)
閉じた瞼の裏に、祥真と出会った日のことがありありと蘇る。
「ずっと、お礼を言いたかったんです。ありがとうございました」
いつしか仕事を忘れ、私情に突き動かされていた。しかし、そのことに月穂は自分で気がついていない。
祥真は急に感情豊かに話し出す月穂にどぎまぎとしていた。
「いや……。あの街にある寿司屋に知り合いがいるから、たまたま……」
「そうだったんですね。では、その方にも感謝しなければ」
直後、祥真はいきなりソファから立ち上がる。
「隼さん?」
「もう戻る」
祥真はひとこと答え、顔も見ずにドアへ足を向ける。月穂は慌てて席を立ち、祥真に声をかけた。
「今日も一日お疲れ様でした。貴重なお時間いただきまして、ありがとうございます」
下げた頭を戻すと、祥真がなにか言いたげな瞳をしている。けれども、祥真はそのまま部屋を出ていってしまった。