BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
 それから約三十分後。月穂は仕事を終えてUALを出た。

 あと数分もすれば完全に陽は落ち、暗くなる。
 僅かに明るさの残る空を眺め、ボーッと考え事をして歩く。

 祥真は今頃、陽が落ちていくのを見下ろしているのだろうか、などと無意識に思う。

(小田さんが空を見ていたとき、隼さんを思い出しちゃったな。そういえば私、彼のカウンセリングでは、ちょっとしゃべりすぎてたかも)

 心理カウンセラーは、基本的に聞き役に徹する。それが、途中から相手の意思とは関係なく、自分の感情を優先させて話してしまったと反省する。

(あのとき、自分本位のカウンセラーだって呆れて、さっさと帰っちゃったのかも)

 無意識にため息を吐き、羽田空港国際線ターミナル駅に着いた。ホームに立ってもぼんやり考え事を続けていると、声をかけられる。

「コンバンハ。ひとりですか?」
「えっ?」

 振り返ると、上背のある若い外国人男性がいた。

「どこかオススメのお店、教えてくれませんか? ワタシいろんなところへいきたい」
「え、あー……ええと」
「そうだ。一緒にディナーしませんか?」

 月穂は観光客なのだろうと納得するも、スラスラと出てくる日本語に感心する暇もなく、グイグイと距離を縮めようとする相手におろおろとする。

「い、いえ。そういうのはちょっと」
「でも、ワタシとアナタ、同じ電車でしょ?」

 男は自分と月穂を交互に指差し、にっこりと笑う。

(どうしよう。この人強引だし、このままついてきちゃいそう)
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