BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
「説教は後だ。しっかり走れよ」

 外国人は、ふたりへふらりとした足取りで近寄る。すると、月穂は急に彼から携帯を渡される。
 困惑していると、彼が身を挺して守るように月穂を背後に匿った。

 刹那――。

「Call 911!(警察を呼べ!)」

 彼が大きな声で叫んだが、月穂は理解できず、ただ驚いて肩を上げた。
 しかし、彼の言葉に固まったのは、怪しげな外国人も同じだった。

 相手が一瞬怯んだ隙に、彼は月穂の手を引き、走り出す。月穂は呼吸もままならない疾風のような速さに、必死に食らいついていく。

 全力疾走し続けていると、少し遠くでパトカーのサイレンが聞こえてきた。
 ふたりは肩で息をしつつ、足を緩めた。ふと見えた景色は、さっきまで観光していたリトルトーキョーの街並み。

 月穂がホッと胸を撫で下ろした、そのとき。

「このバカ! 日本を一歩出たら、いつどこで危険な目に遭うかわからないんだ! 四六時中気を張ってろ! 女ひとりならなおさらだ!」

 すごい剣幕で捲し立てられ、ただただ委縮する。これまで、こんなにも本気で怒鳴られたことなどない。

「たまたまタイミングよくサイレンも聞こえてきてなんとか助かったけど、計り間違ったら最悪なことになってたぞ!」

 月穂は肩を窄め、瞳には涙が浮かんでくる。

「……すみませんでした」

 ようやく絞り出した謝罪の言葉に、彼は「はあ」とひとつ息を吐き、瞼を伏せた。

 自分は本当に大変なことをしたのだと改めて思うと、彼の顔をまともに見ることができない。心の中で猛省を繰り返す。
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