BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
 数十分後、タクシーは宿泊先のホテルに到着し、月穂は肩を揺すられる。

 月穂がおもむろに目を開け、もたもたしている間に、彼はタクシーへの支払いを済ませ、先に降りていった。
 月穂も慌ててタクシーを降り、彼を追いかけようとすると、彼は足早にロビーを通り過ぎていく。

 きっと彼は、このまま振り返ることもなく去るつもりなのだろうと思い、咄嗟に声を上げた。

「あのっ」

 月穂の呼び声が、広いロビーに響く。

 普段はあまり声を張ったりしないから、こんな声も出せるのかと自分で自分に驚いた。
 周りの視線にも負けず、十数メートル先にいる彼に叫ぶ。

「ありがとうございました!」

 彼は足を止め、一度振り向いたけれど、なにも答えずに行ってしまった。
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