BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
「さっき飲んできたばっかりだけど、コーヒーでも飲む?」
「あ、どうぞお構いなく」

 動揺のせいで、あからさまに顔を逸らし、素っ気ない態度を取ってしまった。
 自分の不器用さに後悔する。

「どのみち俺のを淹れるから、遠慮しなくてもいい」
「それなら……お言葉に甘えて」

 今度は素直に答えることができて、内心ホッとした。

 月穂の悩みは、プライベートになると、自分の考えや気持ちを素直に相手に伝えられないことだ。
 今みたいな些細なことも、さらりと口にすることができない。

「すぐだから座ってて」

 祥真に言われたものの、すぐにソファに座ることもできなくて、カラーボックスへ手を伸ばす。

「プロフェッショナルですね。飛行機についての難しそうな本がいっぱい」

 パッと見だけでも、そこに並んでいる本はただ趣味で楽しんで観賞するようなものではなく、専門的な内容の物だというのがわかった。

(これ見たら、パイロットになるまでの気持ちの経緯はどうあれ、仕事に対して真摯に向き合っているのがわかる)

 中腰で背表紙を順に眺めていると、すぐ後ろで声がした。

「それなら君もそうだ。あんなに雨に濡れたのに、パソコンは無事だったって笑うくらいなんだから」

 反射で振り向けば、すぐそこに祥真の顔がある。月穂は心臓が飛び跳ね、身体が硬直した。

 祥真はそんな月穂に気づくことなく、どこからか持ってきていた一冊の本を元に戻す。
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