BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
「夕貴さん、大和さんといたんですねー。あ。もしかして、約束でもしてました?」

 乃々が白々しいほど満面の笑みで、夕貴と月穂を交互に見やった。

「いっ、いえ! 違いますよ!」
「そうなんですかあ?」

 乃々の冷やかし交じりの視線と声に、下手に否定を続ければ余計に騒がれるかと思い、月穂は閉口する。
 すると、夕貴が驚くことを言う。

「俺が会いに来たんだよ」

 誰もが目を丸くし、夕貴に注目する。

「と、いうことで、これ俺の連絡先。受け取って」

 夕貴はポケットから手帳を取り出し、ペンをスラスラと走らせる。番号を書いたリフィルを破り、月穂に握らせた。

 月穂はメモを手に、おろおろとするだけだ。
 祥真の反応だけが気になり、ちらりと窺った瞬間、視線がぶつかり、咄嗟に顔を逸らしてしまった。

「さ、そろそろ行こうか祥真。それじゃあ、大和さん。また近々」

 夕貴がベンチを立って最後に言った『また』が、なんだか意味深に聞こえてくる。

 月穂は胸をざわつかせながら、祥真と夕貴の背中を見送る。

 彼はいったい、どんな顔をしていたのか――。
 目が合ったのはほんの少しで、表情までわからなかった。

 夕貴とのことは自分の意思ではない、と祥真の背中を追って、そう伝えたい衝動に駆られたけれど、実行に移す勇気がない。
 モヤモヤした気持ちでいると、隣にいた乃々が祥真を呼び止める。

「隼さん! 私、本当になんでも相談に乗りますから! 心理については大和さんが専門ですけど、検査のことや身体についてなら私のほうがご協力できます」
「それはどうも」

 乃々の熱弁と裏腹に、祥真は最後までつれない態度で去っていった。
 祥真の後ろ姿に視線を送ったまま、乃々がつぶやく。
< 69 / 166 >

この作品をシェア

pagetop