BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
「須田さん。お疲れ様です。なんでしょうか」

 彼女は一般病棟で勤務している看護師。歳は月穂のひとつ下で二十五歳だが、月穂と比べ、まだどこか学生っぽい雰囲気が残っている。

 月穂は曲がり角に身を潜めて手招きする乃々に、小首を傾げて近づいた。乃々は両手を合わせ握り、クリッとした大きな瞳で月穂をジッと見る。

「大和さんって大体定時上がりですよね? 今日空いてません?」
「え……。特に予定はないですけれど」

 月穂がたどたどしく答えると、乃々は月穂の両腕を掴んだ。そして、満面の笑みを浮かべ、鈴のような高く可愛らしい声で喜ぶ。

「やったあ! ご飯に行きません? 一緒に美味しいもの食べましょうよー」
「は、はあ。いいですけど……」

 月穂は乃々のテンションに気圧されるように一歩後退る。

 まだ職場に慣れていないうえ、乃々のようなタイプとは、仕事以外で深く関わったことがない。
 そのため、彼女の誘いに困惑していた。元々あまり人付き合いが得意ではないほうだから余計だ。

「じゃあ、仕事終わったらロビーで」

 今にもスキップをしそうな雰囲気で去っていく乃々に、一抹の不安を抱く。

「大丈夫かな……」

 月穂は慣れない約束に表情を曇らせたが、軽く頭を振って仕事に戻った。
< 8 / 166 >

この作品をシェア

pagetop