BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
 午後六時。
 月穂は乃々に連れられ、一軒のダイニングバーにいた。

 カウンター席でもないのに、乃々が隣に座っているのには理由がある。

「今日、久々にテンション上がるよね。肩書きはもうオッケーだから、顔がイイ人揃いを期待!」
「あんたはメンクイだからね~」

 乃々の奥隣りに並んで席に着いているふたりが、大きな声で会話している。
 月穂はそれを聞き、乃々の袖をクイッと引いた。

「須田さん、これって……」

 月穂は席に着いてすぐ、嫌な予感がしていた。

 向かい側にも四席用意されているのを見れば、合コンだと一目瞭然だった。しかし、乃々からはっきりと聞かされていなかったため、核心をついてみたのだが……。

「あ、一応合コンなんですけど、そんなに畏まった会じゃないので大丈夫ですよ。お金もかかりませんし」

 乃々は黙って連れてきたことに悪気の欠片も見せず、けろっとしている。

「いや、お金は気にしてないですけれど……。ただ私こういうの経験ないので、迷惑かけるかな……と」

 月穂はやんわり断る素振りを見せながら、乃々の友人ふたりをちらりと見る。
 乃々同様、今どきの可愛いメイクやファッションで、地味な自分とはまったくタイプが違うと改めて感じた。

 彼女たちは、相手がまだやってきていない段階でも興奮状態。月穂はどう頑張っても、そういったテンションに合わせられない。

 月穂が『帰りたい』と思っていると、不意に右腕を掴まれた。

「平気ですって! ただ笑って、美味しいですねってご飯食べてたらいいんですよ! ね? だからここにいてください」

 月穂は自分にしがみついて懇願する乃々の手を振り払うことなどできない。必要とされれば、出来る限り応えてあげたいというタイプだからだ。

 こんな自分でも役に立つなら……と、自己犠牲になりがちな部分は、月穂の欠点だった。
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