BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
「もしもし。大和です」
『あ。大和さん。今上がったばかりなのにごめんなさいね』
「いえ。どうかなさいましたか?」
『ストレスと援助要請についての論文が書かれた本、大和さん持ち帰ってる? 今、使おうと思ったら見当たらなかったから』

 瞬間、月穂はサーッと青褪める。視線をカバンの中に向けると、花田の探している本があった。

「すっ、すみません! 私、カバンに入れっぱなしで……」
『あ、そうなのね。じゃあ、週明けでいいわ。忘れずに持ってきてくれるかしら?』
「いえ! まだ近くなので、今戻ります!」

 月穂は電話だというのに、何度もぺこぺこと頭を下げ、大きな声で即答した。すぐさま身体を半回転させ、今来た道を戻る。

『いいのよ。無理しないで』

 花田の優しい声を聞き、さらに歩調を速める。

「大丈夫です。少し待っていていただけますか?」
『そう? じゃあお願いしようかしら。ゆっくりでいいから。気をつけて』

 通話を終えると、月穂は小走りで病院へ向かった。
 病院の目と鼻の先にあるカフェに差しかかったとき、名前を呼ばれる。

「大和さん」
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