誠の華−ユウガオ−
ミシッと床の軋む音が聞こえたのはそんな時だった。
その人は特に声をかけるわけでもなく、黙って私の隣に立った。
「……私が、組を抜けることになったの…聞いてる?」
「あぁ」
震える声を抑える事も出来ぬまま答えると短く答えた聞き慣れた低い声。
安心感からか聞かれてもいないのに勝手に口が動く。
「もう戦なんて懲り懲り。誰かが傷つくところなんてこれ以上見たくない。それに私がいたところで何も変わらないし」
組みに入りたてのまだ一番楽しかった時、私の側にいてくれた彼等の大半がいなくなった。
救えなかった人達の顔を思い出しながら自分の掌を見る。
無様にも晒しでぐるぐる巻きになった手は更に私の心を傷つけた。
もう嫌だ。
「正直お前が戦から離れてくれることには安心している。これでお前を失う恐怖から逃れられ戦に打ち込めるからな。だが…やはり寂しいもんだな」
そう言った彼の横顔には普段あまりみられない寂しさを滲ませた穏やかな笑みが浮かんでいた。
「は、じめ…くん……」
戦はもう嫌だが、まだ勇さんに歳さん、新八さん、左之さん、一君がいる新撰組を抜けるのに未練がないわけではない。