誠の華−ユウガオ−




「キャーーーーーーーッッッッ!!!」


突如辺り一帯に響き渡った悲鳴に素早く反応した私達は浅葱色の羽織を翻し駆け出した。


「何なんだこのくそまずい酒はっっ!!!」


「えろうすんません!!」


どうやら酔っ払いが暴れているようだ。


側にはお盆を抱えながら何度も頭を下げる千代の姿がある。


「このクソガキが!こんな酒に金を出させるなんざとんだ悪…いだだだだだだだっっっ!!!!」


「うるせえ男だな。このまま腕をへし折ってやろうか」


「千代、こっちおいで」


左之さんが酔っ払いを捻り上げている隙に千代を抱き寄せる。


「お姉はん…おおきに」


「いいよ。よく泣かずに我慢できたね。偉かったよ」


千代を抱きしめて頭を撫でてあげる。


千代の家は京で名の知れた料亭だった。


しかし禁門の変で千代の家は焼き払われ、一文無しとなってしまった家計を救うためにこの店で奉公しているのだ。


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