サトラレル
私の地元、羽浦市は、東京から新幹線で4時間ほどの距離の所にある。
一応駅前には駅ビルだってあるし、立派なアーケードの付いた商店街だってある。
ファミレスだけじゃなくってお洒落なカフェダイニングだってあるし、チェーン店じゃない居酒屋だって、ちょっとお高い食材を扱うスーパーだってある。
だけど空港は遠いし、電車の本数は少ないし、地下鉄も無いから移動手段は基本車のみ。
『市』なんて名のっているけど、そこそこの田舎街だ。
「高校卒業以来だから……8年ぶりか」
それにしては、驚くほど何も変わっていない。
電車通学の友達と時間を潰した駅ビル前のベンチも、通りを挟んで見えるコンビニも、奥に見えるお茶屋さんの抹茶ソフトの、ソフトクリームの形の看板も。
薬局の前にいるオレンジ色のゾウのキャラクターの人形は……ちょっとだけ色褪せたみたいだけど、愛嬌のある表情は変わらない。
もう帰らないと決めてここを離れたはずなのに、何年か前まで『私』が存在していた見慣れた景色は、なんだか泣き出しそうなほど懐かしく見えた。