サトラレル

そう思ってから、現実のほうがよっぽど悪夢だった……と思い直した。


恋人に婚約を破棄されて、二股かけられてた末にデキ婚までされて。


仕事を捨てて、田舎に逃げ帰って来たその日に車に跳ねられた。


……なんて、酷い現実なんだろう。


うん。言葉を食べられるっていう変な夢だけど、やっぱりこのまま目覚めなくてもいいんじゃないかな。


ハハッと乾いた笑いが溢れる。


「……あなた、『須藤 野々花(すとう ののは)』さんですよね?」


看護師さんが不意に私の名前を呼び、驚いて思わず『えっ?』と声をあげてしまう。


あっ、と思った時にはもう遅かった。



ーー『え』『っ』



私の口から飛び出して、ふわふわと宙に漂う言葉達。


天井に向かって上がり始めた言の葉を、再び白猫が叩き落として、ムシャムシャと頬張った。


ぞくん。

ぞくん。


心の一部分をえぐりとられたような奇妙な疼きを、胸の中でまた繰り返す。


ギュッと病衣の胸元を掴みながら、私はコクンと頷いた。


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