サトラレル
……そっか。


ここって、向井(むかい)記念病院だったのか……。



羽浦(はうら)市には、大きな病院がいくつかある。私が車に跳ねられて運ばれた(らしい)この向井(むかい)記念病院もそのうちの一つだ。


総合病院ほどの規模ではないけれど、この病院を建てた向井家が地元では昔から有名な資産家だったって事と、他の大規模な病院が整備される前から地域医療に貢献して来た病院……という事もあって、地元の人々の中では"大病院"という位置付けになっている。


そして地元の特に年配の人達には、"向井記念病院に勤めている"という事だけで尊敬されてしまうくらい、一種のステータスになっているのだ。


さっき嵐のように現れて、風のように去って……いや、追い返されてしまった(ひと)の名前は、鳴海真人(なるみまこと)と言う。


あんなにバタバタと落ち着きなく、ちょっと頼りなく見える(まこ)ちゃんは、ここの内科に勤めている立派なお医者様だ。


そして、私がそんな立派なお医者である彼に野々(のの)と呼ばれているくらい親しい間柄なのは、彼が私の母方の従兄だっていう事と、事情があって母親から捨てられた私を鳴海家が引き取ってくれて、それから兄妹のように暮らしてきたから……という経緯があっての事だ。

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