サトラレル
「それにさ、元々メールとかも苦手だったし覚える気も無いんだ。LINEだって親父のほうが先に始めたんだぞ」


真ちゃんが柔らかな表情で笑う。


小さな頃から変わらないその優しい笑顔は、両親が側に居なくて寂しかった私の心を、いつも癒してくれた。


『スマホにしたのも最近でしょ?』


メモに書くと、また真ちゃんは笑った。


だけど、今度の笑いは苦笑いだ。


「愛着もあったし、変えたく無かったんだよな。だけどなー……うっかり水没させちゃって、もう同じ機種も無いって言われたからさ」


それは、同じ機種が欲しいって言うほうが無理がある。……いくら愛着があったとしても。


『だってあの水色のガラケーでしょ?』


8年も前に買ったものが、まだ売ってるって考えるほうがおかしいんだから。


「うるさいな。……俺はね、一途なんだよ」


また真ちゃんは柔らかく微笑んだ。


"一途なんだよ"



そう言った瞬間、どこか遠くを見るような目をしながら。


今だけは、声が出せなくなって良かったって思う。だって、たぶん声を出しちゃいけないって気をつけてなかったら、私はきっと真ちゃんに聞いてしまっていたから。


「真ちゃんは、(せり)ちゃんの事、忘れられないの?」


……って。




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