サトラレル
彼女は知っている。
今日の結婚式の主役の一人。新郎で私達と同期の藤井 康人が私の元カレだっていう事を。
もちろん他の同期の皆も同じ課の人達も、私と康人が付き合っていた事を知っていた人は多い。
だけど、つい四ヶ月前まで私と康人が婚約していた事を知っているのは、あずみんだけだ。
今日は……同期会の全員が招待されているから私一人が欠席する訳にはいかなくて、さっきから皆の労るような憐れむような視線が気になって、何だか心が落ち着かない。
ずーーっと切れ味の悪い刃物でゴリゴリと切られているような、そんな気分だ。
もう、いっそのことスパッと切ってくれたほうが、楽になれるのに……。
***
康人との出会いは、入社後暫くしてから開かれた同期会がきっかけだった。
私の勤める王子乳業は日本でも一、二を争う乳製品メーカーだ。
そんな大企業の本社に就職できた事と、同期って言っても大勢の人がいる中で、営業の康人と総務の私が接点を持てたのは本当に奇跡のようなものだった。
たぶん、私はここで一生分の幸運を使い果たしてしまったに違いない。